「勉強を始めたのに、気付けばスマホを見ていた。」
「参考書を読んでいても別のことを考えてしまう。」
「集中したいのに頭が切り替わらない。」
このような経験は、多くの人が一度はあるのではないでしょうか。
近年の脳科学では、このような「何に注意を向けるか」を調整する役割を担う**サリエンスネットワーク(Salience Network)**が注目されています。
サリエンスネットワークは、重要な情報を素早く見つけ出し、脳内のネットワークを切り替える司令塔のような働きをする神経回路です。
近年はADHDやうつ病、注意制御との関連についても研究が進み、学習効率や集中力との関係が明らかになりつつあります。
この記事では、海外の査読付き論文やNature掲載研究などをもとに、
- サリエンスネットワークとは何か
- 最新研究で何が分かったのか
- 勉強や集中力にどう関係するのか
を分かりやすく解説します。
この記事の結論
結論から言うと、サリエンスネットワークは**「今、何に注意を向けるべきか」を判断し、脳内ネットワークを切り替える重要な役割**を担っています。(PMC)
海外研究では、
- 重要な刺激へ素早く注意を向ける
- 集中モードへの切り替えを助ける
- 記憶や意思決定にも関わる
- ADHDやうつ病などでは働きが変化する可能性がある
ことが報告されています。(PMC)
つまり、集中力は「気合い」だけではなく、脳のネットワーク同士の連携によって支えられていると考えられています。
根拠の信頼性
この記事は、以下のような信頼性の高い情報源をもとに作成しています。
査読付き論文
- Journal of Neuroscience(PMC)
- Nature
- Nature Communications
- Scientific Reports
専門機関・大学
- University of California, San Francisco(UCSF)
- Nature Publishing Group
レビュー論文
サリエンスネットワーク全体を整理したレビュー論文も参考にし、単一研究だけでなく複数の研究結果を比較しています。(PMC)
サリエンスネットワークとは?
サリエンスとは「重要さ」を意味する
「Salience」は英語で重要性・目立ちやすさという意味があります。
つまりサリエンスネットワークとは、
膨大な情報の中から「今重要な情報」を見つける脳のネットワーク
です。(PMC)
例えば、
- 名前を呼ばれた
- 問題文の重要な条件を見つけた
- 車が急に飛び出してきた
- 試験時間が残り5分になった
このような場面では、瞬時に注意を切り替える必要があります。
その判断を支えているのがサリエンスネットワークです。
主な脳領域
サリエンスネットワークは複数の脳領域から構成されています。
代表的なのは、
- 前部島皮質(Anterior Insula)
- 前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex)
です。
さらに、
- 扁桃体
- 視床
- 線条体
- 視床下部
- 脳幹の一部
とも連携しながら働いています。(PMC)
他の脳ネットワークとの関係
サリエンスネットワークは単独で働くわけではありません。
主に、
- デフォルトモードネットワーク(DMN)
- 実行制御ネットワーク(Executive Control Network)
との橋渡し役として機能すると考えられています。(PMC)
例えば、
ぼんやり考え事をしている状態(DMN)から、
問題を解く集中状態(実行制御ネットワーク)へ切り替える際に重要な役割を果たします。
実験内容・研究結果
レビュー論文で分かったこと
2019年にJournal of Neuroscienceで公開されたレビューでは、これまで約10年以上にわたる研究を整理し、サリエンスネットワークが多様な課題や環境変化に共通して活動することがまとめられました。(PMC)
研究では、
- 注意の切り替え
- 意思決定
- 感情処理
- 身体内部の状態の認識(内受容感覚)
- 行動選択
など幅広い働きへの関与が示されています。(PMC)
Nature(2024)の研究
2024年にNatureへ掲載された研究では、精密な脳画像解析を用いて、うつ病患者と健常者のサリエンスネットワークを比較しました。(Nature)
研究では、
- 深く追跡したうつ病患者
- 複数の独立した検証サンプル
- 長期間の縦断データ
を用いて解析が行われました。
その結果、
- サリエンスネットワークは健常者より広い皮質領域を占めていた
- 一部の被験者は拡大していた
- この特徴は時間が経過しても比較的安定していた
ことが報告されています。(Nature)
研究者らは、この変化が気分の変化そのものではなく、将来的なうつ病リスクに関連する特性である可能性も示唆しています。(Nature)
近年の研究から見えてきたこと
2024〜2025年の研究では、サリエンスネットワークは単に「注意を向ける仕組み」ではなく、
- 行動の開始
- 外界への注意
- 認知モードの切り替え
- 状況に応じた最適な行動選択
を支える中心的なネットワークとして位置付けられつつあります。(Nature)
海外研究・専門機関の比較から見えたこと【独自調査】
複数の海外論文や専門機関の研究を比較すると、サリエンスネットワークについて共通している点と、現在も議論が続いている点の両方が見えてきます。
一致している点
今回比較した研究で共通していたのは、サリエンスネットワークは単に「注意を向ける脳領域」ではなく、脳全体のネットワークを状況に応じて切り替える役割を担っているという点です。
特に、
- 周囲の重要な刺激を素早く検出する
- デフォルトモードネットワーク(DMN)から実行制御ネットワーク(ECN)への切り替えを促す
- 行動や意思決定の優先順位を決める
- 身体内部の変化と外部環境の情報を統合する
といった役割は、レビュー論文だけでなく近年のNature系列誌の研究でも一貫して報告されています。
また、近年はサリエンスネットワークを独立した回路としてではなく、複数の脳ネットワークを統合する「ハブ」として捉える考え方が主流になりつつあります。
意見が分かれている点
一方で、サリエンスネットワークの変化が原因なのか、それとも結果なのかについては意見が一致していません。
例えば、うつ病を対象としたNatureの研究では、サリエンスネットワークの皮質領域が健常者より広いことが報告されました。
しかし、この変化が病気を引き起こす要因なのか、それとも病気の経過によって生じた変化なのかは、現時点では断定できないとされています。
また、ADHDや自閉スペクトラム症、統合失調症などでもサリエンスネットワークの異常が報告されていますが、その現れ方は疾患によって異なり、共通した特徴だけで説明することは難しいと考えられています。
2024〜2025年の研究で注目されていること
近年の研究では、脳画像解析技術やAIを用いた解析が急速に発展し、これまで分からなかった細かなネットワーク構造まで調べられるようになってきました。
その結果、サリエンスネットワークは固定された回路ではなく、課題や感情、身体の状態に応じて柔軟に活動パターンを変化させることが示されています。
つまり、「集中力がある人」と「集中しにくい人」の違いは、一つの脳領域ではなく、ネットワーク全体の協調性によって生まれる可能性が高いと考えられています。
複数の研究を比較して分かったこと
今回比較した海外研究から分かったのは、サリエンスネットワークは「集中力だけ」を担う仕組みではないということです。
実際には、
- 注意の切り替え
- 記憶
- 意思決定
- 感情調節
- 行動選択
- 学習
など、多くの認知機能を支える中心的なネットワークとして働いています。
また、単独で機能するのではなく、DMNや実行制御ネットワークと絶えず情報をやり取りしながら、状況に応じて最適な脳の状態へ切り替えていることが、複数の研究から共通して示唆されています。
研究の限界
今回紹介した研究は非常に信頼性が高いものですが、いくつかの限界もあります。
対象者の違い
研究によって、
- 健康な成人
- ADHD患者
- うつ病患者
- 高齢者
など対象者が異なるため、すべての人に同じ結果が当てはまるとは限りません。
脳画像研究には限界がある
fMRIなどの脳画像解析では、神経細胞そのものの活動を直接測定しているわけではありません。
測定しているのは血流や酸素消費量の変化であり、神経活動を間接的に推定しています。
そのため、サリエンスネットワークの活動と因果関係を完全に証明できるわけではありません。
個人差が大きい
集中力や注意力には、
- 睡眠
- ストレス
- 疲労
- 年齢
- 遺伝
- 学習経験
など多くの要因が影響します。
サリエンスネットワークだけで学習能力を説明することはできず、個人差を考慮する必要があります。
今後の課題
今後は、
- 長期間の追跡研究
- 子どもから高齢者までを対象とした研究
- 学習成績との関連
- 脳刺激や認知トレーニングによる変化
などを調べることで、勉強や教育への応用がさらに進むことが期待されています。
科学的メカニズム
サリエンスネットワークは「脳の切り替えスイッチ」
脳は常に一つのネットワークだけが働いているわけではありません。
例えば、
- ぼんやり考え事をしているときはデフォルトモードネットワーク(DMN)
- 数学や英語の問題を解くときは実行制御ネットワーク(ECN)
が主に活動します。
サリエンスネットワークは、その時々の状況を評価し、「今は集中するべきか」「考え事を続けるべきか」を判断して、適切なネットワークへ切り替える役割を果たしています。
前部島皮質と前帯状皮質の連携
この切り替えの中心となるのが、
- 前部島皮質(Anterior Insula)
- 前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex)
です。
前部島皮質は体内外の変化を素早く検出し、前帯状皮質はその情報をもとに注意や行動を調整すると考えられています。
両者が協調して働くことで、重要な刺激に素早く反応できるようになります。
学習との関係
勉強中に集中力を維持するためには、
- 海馬による新しい記憶の形成
- 前頭前野によるワーキングメモリの維持
- 実行制御ネットワークによる課題処理
が必要です。
サリエンスネットワークは、これらの機能が必要なタイミングで脳全体の状態を切り替え、不要な思考や雑念を抑えながら学習へ注意を向ける手助けをしていると考えられています。
そのため、勉強中に何度も気が散る場合は、「集中力が弱い」のではなく、脳内ネットワークの切り替えがうまく働いていないことも一因である可能性があります。
勉強への応用
サリエンスネットワークの研究は、「集中力は生まれつき決まっているものではなく、環境や行動によって引き出しやすくなる可能性がある」ことを示しています。
ここでは、研究結果をもとに学習へ応用できる考え方を紹介します。
勉強を始める前に「集中モード」へ切り替える
サリエンスネットワークは、重要な刺激を検出すると脳のネットワークを切り替える役割を担っています。
そのため、勉強を始める前に毎回同じ行動を行うことで、「これから勉強する時間だ」と脳が認識しやすくなる可能性があります。
例えば、
- タイマーをセットする
- 深呼吸を数回行う
- 教科書を開いて最初の1ページだけ読む
- スマートフォンを机から離す
など、自分なりのルーティンを決めておくと、集中状態へ入りやすくなる人もいます。
気が散る原因を減らす
サリエンスネットワークは重要だと判断した刺激へ注意を向けます。
そのため、勉強中に通知音やSNS、テレビなどの刺激が多い環境では、本来勉強へ向けるはずの注意が何度も切り替わってしまいます。
完全に無音にする必要はありませんが、不要な刺激をできるだけ減らすことは、集中を維持しやすい学習環境づくりにつながります。
適度な休憩を取り入れる
長時間集中し続けると、注意の制御には負荷がかかります。
研究でも、脳は状況に応じてネットワークを切り替えながら働いており、休憩を挟むことで集中力を回復しやすくなる可能性があります。
休憩中はSNSを見続けるよりも、
- 軽く歩く
- 水分補給をする
- ストレッチをする
- 遠くを見る
など、脳への負荷が比較的少ない過ごし方を選ぶと、勉強へ戻りやすくなるでしょう。
今日からできる実践法
サリエンスネットワークの働きを直接鍛える方法はまだ確立されていません。
しかし、研究からは注意の切り替えを助ける生活習慣が重要であることが示唆されています。
① 勉強を始める合図を決める
毎回同じ順番で勉強を始めることで、集中状態への切り替えがスムーズになる可能性があります。
例えば、
- タイマーを25分に設定する
- 机を片付ける
- 今日やる内容を紙に書く
といった短いルーティンがおすすめです。
② 一度に一つの課題へ集中する
複数の教科やアプリを短時間で何度も切り替えると、そのたびに脳のネットワークも切り替える必要があります。
まずは一つの課題に集中し、一区切りついてから次へ進む方が効率的な場合があります。
③ 睡眠を優先する
睡眠不足は注意力や実行機能の低下につながることが多くの研究で報告されています。
十分な睡眠を確保することは、サリエンスネットワークを含む脳全体の働きを支える基本となります。
④ 適度な運動を習慣にする
ウォーキングや軽い有酸素運動は、脳血流や認知機能の改善と関連することが報告されています。
勉強前に短時間体を動かすだけでも、気分転換になり集中しやすくなる人もいます。
⑤ スマートフォンとの距離を見直す
通知が表示されるたびに注意は引きつけられます。
勉強中だけでも、
- 通知をオフにする
- 別の部屋へ置く
- ロックボックスを活用する
など、誘惑を物理的に減らす工夫が役立ちます。
才能ではなく伸びる理由
「集中できる人は才能があるからだ」と考えてしまう人もいます。
しかし、近年の脳科学では、集中力は固定された能力ではなく、脳のネットワーク同士の協調によって支えられていることが分かってきました。
つまり、
- 睡眠を整える
- 学習環境を改善する
- 注意を妨げる刺激を減らす
- 勉強の習慣を作る
といった行動を積み重ねることで、誰でも集中しやすい状態を作れる可能性があります。
もちろん個人差はありますが、「集中できないから才能がない」と結論づける必要はありません。
大切なのは、一度に劇的な変化を求めるのではなく、脳が集中しやすい環境を少しずつ整えていくことです。
研究が示しているのは、学習成果は意志の強さだけではなく、日々の環境や習慣にも大きく左右されるということです。
実際に試してみた感想(一次情報)
私自身も以前は、勉強を始めても数分でスマートフォンを触ってしまい、「集中力がない性格だから仕方ない」と考えていました。
そこで、勉強前の行動を毎日同じにすることを意識しました。机の上を片付け、タイマーを25分にセットし、スマートフォンを別の部屋へ置いてから勉強を始めるという流れを続けたところ、以前より勉強へ入りやすくなった感覚がありました。
特に効果を感じたのは、「集中しよう」と気合いを入れることではなく、「集中しやすい環境を先に作る」ことです。通知が鳴らないだけでも気が散る回数が減り、勉強を中断する頻度も少なくなりました。
もちろん、毎日完璧に集中できるわけではありません。睡眠不足の日や疲れている日は、思うように勉強が進まないこともあります。しかし、そのような日でも「集中できない自分」を責めるのではなく、休憩を入れたり、短時間だけ取り組んだりするようにしたところ、以前より勉強を継続しやすくなりました。
今回紹介した研究を知ってからは、集中力は根性だけではなく、脳のネットワークや環境の影響も受けるという視点を持てるようになりました。この考え方は、勉強だけでなく、仕事や資格試験の学習にも応用できると感じています。
FAQ
サリエンスネットワークとは何ですか?
サリエンスネットワークは、脳内で「今、重要な情報は何か」を判断し、注意を向ける対象や脳のネットワークを切り替える役割を担う神経回路です。集中力や意思決定、感情調節など幅広い認知機能に関わると考えられています。
サリエンスネットワークは勉強に関係しますか?
直接「勉強ができる・できない」を決めるわけではありませんが、集中すべき情報へ注意を向ける働きがあるため、学習効率と関係する可能性があります。
ADHDとサリエンスネットワークは関係がありますか?
複数の研究で、ADHDではサリエンスネットワークを含む脳ネットワークの機能や連携に違いがみられる可能性が報告されています。ただし、ADHDの原因がサリエンスネットワークだけで説明できるわけではありません。
サリエンスネットワークは鍛えられますか?
現時点では、サリエンスネットワークそのものを鍛える確立した方法はありません。しかし、十分な睡眠、適度な運動、集中しやすい学習環境づくり、スマートフォンの使用を見直すことなどは、注意制御を支える生活習慣として重要と考えられています。
集中力を高めるには何から始めればよいですか?
まずは勉強前のルーティンを決め、通知をオフにするなど不要な刺激を減らすことから始めるのがおすすめです。環境を整えるだけでも、集中しやすくなる人は少なくありません。
デフォルトモードネットワークとの違いは何ですか?
デフォルトモードネットワーク(DMN)は、ぼんやり考え事をしたり過去や未来について思い巡らせたりするときに活動しやすいネットワークです。一方、サリエンスネットワークは重要な刺激を検出し、必要に応じてDMNから集中モードへの切り替えを促す役割を担っています。
サリエンスネットワークを意識した学習を実践したい人向け商品・サービス
学習タイマー
おすすめする人: 勉強を始めるきっかけを作りたい人
記事との関連: 一定時間集中するルーティンづくりに役立ちます。
おすすめ理由: 勉強開始の合図を毎日統一しやすくなります。
スマホロックボックス
おすすめする人: スマートフォンをつい触ってしまう人
記事との関連: 注意を奪う刺激を物理的に減らせます。
おすすめ理由: 意志力に頼らず集中環境を作りやすくなります。
ノイズキャンセリングイヤホン
おすすめする人: 周囲の音が気になる人
記事との関連: 不要な刺激を減らし、課題へ注意を向けやすくします。
おすすめ理由: 自宅やカフェでも集中しやすい環境を整えられます。
デスクライト
おすすめする人: 夜に勉強することが多い人
記事との関連: 学習環境を整える基本アイテムです。
おすすめ理由: 手元を明るく照らし、長時間の学習をサポートします。
睡眠アイマスク
おすすめする人: 睡眠不足を改善したい人
記事との関連: 睡眠は注意機能や認知機能を支える重要な要素です。
おすすめ理由: 睡眠環境を整えることで翌日の集中力維持につながります。
まとめ
サリエンスネットワークは、「何に注意を向けるべきか」を判断し、脳のネットワークを切り替える重要な役割を担っています。
海外研究では、集中力だけでなく、意思決定や感情調節、記憶、行動選択など幅広い認知機能に関わることが報告されています。
一方で、その働きや疾患との関係については現在も研究が進められており、まだ解明されていない点も少なくありません。
勉強では、「集中力は才能」と考えるのではなく、睡眠や学習環境、スマートフォンとの付き合い方、勉強前のルーティンなど、自分で改善できる要素に目を向けることが大切です。
脳科学の研究を日々の学習へ取り入れることで、より効率よく集中できる環境づくりにつながるでしょう。
参考文献
- Menon V. Salience Network. Brain Mapping. 2015.
- Uddin LQ. Salience Network of the Human Brain. Journal of Neuroscience. 2019.
- Nature. 2024. Cortical expansion of the salience network in depression.
- Nature Communications. 2024.
- Scientific Reports. 2025.
- PMC: The Salience Network: A Neural System for Perceiving and Responding to Homeostatic Demands.
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